研究成果

研究拠点形成事業 ラオスにおけるボトムアップ型農村コミュニティ開発のための協力ネットワークの形成 目標3:すべての人に健康と福祉を目標4:質の高い教育をみんなに目標7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに目標8:働きがいも経済成長も目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう目標11:住み続けられるまちづくりを

     琉球大学人文社会学部の鈴木規之名誉教授(産学官連携研究員)、ラオス国立大学及びラオス健康科学大学、タイのコンケン大学及びウドンタニラジャパット大学は、ラオス農村のコミュニティ開発の重要な要素としての社会開発資本の形成、保健医療、農業の3分野を設定し、グローバル化の中で変動しつつも海外援助を受けながら自立を目指す農村を事例に研究交流を行いました。
     本研究は、ラオス農村のコミュニティ開発に関する学術研究を重点的に進めるため、ラオス及びタイの学術機関と密接に連携し、各機関の専門性を生かした協力体制の構築過程で若手研究者を育成することを目標としたものです。
     社会的にインパクトのある成果を目指し、共同研究(R1コミュニティ開発における海外援助の果たす役割、R2コミュニティ開発における内発性と持続可能性)と毎年の国際セミナーを実施しました。共同研究により若手研究者の育成が行なわれ、ラオスの地域特有の課題に対する解決策が提案されたことにより、国際的な学術誌に発表されるなど学術的に大きな価値を生みました。 研究成果は、国際セミナーやラオス国立大学からの研究成果報告書の刊行を通じて現地の大学や地域社会に対して還元されました。
     本事業を通じて、琉球大学は異文化環境での共同研究能力を強化し、ラオスサテライトオフィスを開設するなど、地域に根差した国際研究拠点の基盤を形成することができました。
     最終的には、構築したネットワークを活用し、琉球大学およびラオスサテライトオフィスを拠点に、共同研究、研究者交流、若手研究者の育成を継続的に行い、持続可能な国際研究交流拠点の確立を目指します。

    <発表概要?研究成果>
    【1.日本側拠点機関名】
    琉球大学

    【2.日本側コーディネーター氏名】鈴木規之

    【3.研究課題名】
    ラオスにおけるボトムアップ型農村コミュニティ開発のための協力ネットワークの形成

    【4.研究分野】
     社会学、社会開発学、国際保健学

    【5.実施期間】令和4(2022)年4月1日~令和7(2025)年3月31日(3年間)

    【6.全交流期間を通じた目標】
     本研究交流は、ラオス農村のコミュニティ開発の重要な要素として社会開発資本の形成、保健医療、農業の3 分野を設定し、グローバル化の中で変動しつつも海外援助を受けながら自立を目指す農村を事例に、琉球大学とラオスの2 大学、ラオスに隣接するタイの2 大学とともに実施するものです。
     ラオス国立大学はラオス国において唯一の国立総合大学として、ラオス健康科学大学は唯一の保健医療系の大学として、同国におけるコミュニティ開発の新たな人材育成の役割が期待されています。タイにおいてもコミュニティ開発の人材育成は重要であり、コンケン大学、ウドンタニラジャパット大学はラオスに隣接する東北タイにおいて、ラオスの人材育成を含めてその任を果たしています。
     琉球大学は、これまで公衆衛生、病院改善、歯科口腔外科など保健医療の分野を中心に協力を行い、さらに附属小学校の教員交流や交換留学の推進など教育面での連携を行ってきました。琉球大学のチームによるJICA の地域歯科保健プロジェクトやコミュニティ母子保健の事業が草の根型で進められ、保健省やラオス健康科学大学との協力体制も拡大しつつあり、琉球大学ラオスサテライトオフィスを開設しました。グローバル化の中での有効なコミュニティ開発のためには海外援助の役割やボトムアップ型の視点を取り入れた内発的発展の実践が重要になってきます。
     ラオス国立大学社会科学部社会開発学科ではこのような新しい視点での研究が開始され、若手研究者の育成など琉球大学との連携も始まりました。そこで、本申請事業においては?琉球大学とラオス国立大学、同健康科学大学が進めてきた大学間協定に基づき、これまで取り組んできた様々なプロジェクトをネットワーク化させ、学際的にコミュニティ開発の研究交流?連携をすすめ、自立的で継続的な国際研究交流拠点の構築を目指します。
     これにはラオスと国境を接する東北タイの大学とのネットワークも活用し、琉球大学と同ラオスサテライトオフィスの2 か所に共同研究、研究者交流、若手研究者の育成を継続することができる国際研究交流拠点を最終的に構築します。
     自立的で継続的な国際研究交流拠点の構築のためには若手研究者の育成が最も重要な鍵です。琉球大学で学位を取得したラオス?タイの若手研究者を中心に、拠点機関と協力機関の若手研究者や大学院生に学際的な研究チームやセミナーに参加させ、他分野と協働できる視野の広い若手研究者を育成します。

    【7.研究交流拠点の構築状況】
     研究交流拠点の構築状況と協力体制
     本研究は、ラオス農村のコミュニティ開発における重要な要素として、社会関係資本の形成、保健医療、農業の3つの分野を設定し、グローバル化の中で変動しつつも海外援助を受けながら自立を目指す農村を事例に実施されました。琉球大学とラオスの2大学、さらにラオスに隣接するタイの2大学との協力体制に基づき、学術的な価値の高い成果を挙げ、社会的にインパクトのある成果を目指しました。そのために共同研究(R1コミュニティ開発における海外援助の果たす役割、R2コミュニティ開発における内発性と持続可能性 )と毎年の国際セミナーを実施しました。

    主な共同研究
    ①??? ラオス、ルアンパバーン県農村におけるコミュニティ開発の調査(2023年3月)写真1
    ②??? タイ、コンケン近郊農村における参加型コミュニティ開発の調査(2023年9月)写真2
    ③??? ラオス、ヴィエンチャン近郊農村におけるコミュニティ開発の調査(2024年9月)写真3

    国際セミナー
    ④ 2022年度、琉球大学?ラオス国立大学 2023年度、コンケン大学2024年度、ラオス国立大学 写真4、5


    写真1(共同研究)ラオス、ルアンパバーン県農村でのフィールドワーク(2023年)


    写真2(共同研究)タイ、コンケン近郊農村でのフィールドワーク(2023年)


    写真3(共同研究)ラオス、ヴィエンチャン近郊農村でのフィールドワーク(2024年)


    写真4ラオス国立大学での国際セミナーの開催(2025年3月5~6日)


    写真5同国際セミナーでの日本、ラオス、タイのコーディネーター


    1)学術的価値の高い成果

     ラオス国立大学およびラオス健康科学大学、タイのコンケン大学、ウドンタニラジャパット大学との連携により、コミュニティ開発、保健医療、農業に関する学術的成果が得られました。ラオス国立大学やラオス健康科学大学?ラオス保健省では、ボトムアップ型開発という新たな視点に基づいた研究が進行中であり、琉球大学との共同研究を通じて若手研究者の育成が行われました。このことにより、ラオスの地域特有の課題に対する解決策が提案され、国際的な学術誌に発表されるなど、学術的に大きな価値を生みました。

    2)社会への還元状況
     研究成果は、国際セミナーやラオス国立大学からの研究成果報告書(写真6)の刊行を通じて現地の大学や地域社会に対して還元されました。琉球大学のチームは、ラオス国立大学社会科学部?教育学部を通して学術研究の向上に寄与し、さらにラオス保健省やラオス健康科学大学との協力を深め、現地の保健医療制度の改善に寄与しました。また、ラオスとタイの若手研究者を対象にした共同研究やセミナーを通じて、技術移転や知識共有が進み、地域社会に対する支援が続けられました。


    写真6 研究成果報告書(2025年)
    https://u-ryukyu.repo.nii.ac.jp/records/2021237

    3)日本側拠点機関が得た国際的な強み?特徴?
     琉球大学は、本事業を通じて国際的な共同研究ネットワークを拡大しました。特に、異文化環境での共同研究能力を強化し、ラオスやタイとの協力を通じて、地域特有の課題解決に向けた実践的なアプローチを学びました。琉球大学は、これまでの保健医療、病院改善、歯科口腔外科などの分野で実績を積んでおり、この知見を活かして国際的なリーダーシップを発揮できる基盤を築いてきました。その結果、社会科学系においても学術交流や学生交流が盛んになり、ラオスサテライトオフィスが開設されました。そして本事業でのラオス国立大学社会科学部?教育学部およびラオス健康科学大学?ラオス保健省との共同研究を通して、地域に根差した国際研究拠点の基盤を形成することができました。

    4)相手国拠点機関や国内外協力機関との協力?役割分担の体制
     本研究における協力体制は、各機関の専門性を活かした役割分担に基づいて進められました。ラオス国立大学は、コミュニティ開発と社会科学の分野において、特に社会開発における学術研究の向上と人材育成に焦点を当てました。ラオス健康科学大学?ラオス保健省は、保健医療分野における人材育成と技術提供を担い、タイのコンケン大学およびウドンタニラジャパット大学は、東北タイ地域におけるラオスの人材育成に寄与しました。また、琉球大学は、社会開発や保健医療の分野での共同研究を進めるとともに、教育面での交流や大学院生?若手研究者の育成に力を入れました。
     このように、各機関が互いに専門性を補完し合い、学際的な研究交流を推進することにより、自立的で継続的な国際研究交流拠点を構築するための基盤が築かれました。最終的には、ラオスとタイ東北部の大学とのネットワークを活用し、琉球大学およびラオスサテライトオフィスを拠点に、共同研究、研究者交流、若手研究者の育成を継続的に行い、持続可能な国際研究交流拠点の確立を目指します。
     本事業は若手研究者の育成が最も重要な要素となっており、学際的な研究チームでの共同研究や国際セミナーを通して、若手研究者が他分野との協働により視野を広げることができた。これにより、ラオス?タイの若手研究者は将来のリーダーとして、社会開発に貢献できる能力を身につけることが期待される。

    【8.次世代の中核を担う若手研究者の育成】
     相手国側拠点機関や国内外協力機関との協力連携体制
     本研究は、ラオス農村のコミュニティ開発に関する学術研究を重点的に進めるため、ラオス及びタイの学術機関と密接に連携し、各機関の専門性を活かした協力体制の構築の過程で若手研究者を育成することを目標としたものです。琉球大学、ラオス国立大学、ラオス健康科学大学、タイのコンケン大学及びウドンタニラジャパット大学との協力により、社会開発、保健医療、農業に関する学術的成果を挙げ、相手国への知識移転や技術提供が促進されました。

    1)若手研究者の能力?資質等向上に資する育成プログラムの実施及びその効果
    ?  若手研究者の育成
     本研究は、若手研究者の能力向上を最も重要な要素として位置づけており、琉球大学、ラオス国立大学、ラオス健康科学大学、タイのコンケン大学、ウドンタニラジャパット大学の若手研究者が学際的な視野を広げるための共同研究を実施しました。これにより、地域社会とのネットワークに対応できる能力を養い、社会開発における実践的な解決策を提案する能力が向上しました。
    ?? ? ?セミナー及びフィールドワークの実施
     若手研究者は、国際セミナーやフィールドワーク(共同研究)に参加し、研究手法や技術を学ぶ機会を得ました。これにより、学術的スキルだけでなく実践的な能力も向上し、地域における具体的な課題解決に貢献できるようになった。若手の参加研究者全員が研究成果報告書に成果を執筆しました。
    ?? ? ? ?研究チームへの参加
     若手研究者は共同研究チームの一員として活動し、社会開発や保健医療の実際の問題を解決する経験を積むことができました。これにより、研究者は現地の実情に即した研究を行い、問題解決能力を高めることができました。

    2)若手研究者による交流相手国との研究ネットワーク構築状況
    ? 学際的な研究ネットワークの構築
     若手研究者は、ラオス、タイ、及び日本の研究者との交流を通じて、学際的な研究ネットワークを構築しました。このネットワークは、社会開発や保健医療、農業に関連する課題解決に取り組んでおり、研究者間での意見交換や共同研究が進行中です。
    ? 共同研究プラットフォームの活用
     オンラインプラットフォームとしてのSNSや、オンサイトでのセミナーおよび共同研究フィールドワークを活用することにより、研究者は研究成果や知見を共有し、相互に協力することが可能となりました。
    ? 地域社会に根ざしたネットワークの形成
     若手研究者は、地域での実際の問題を解決するため、研究者同士や農村コミュニティと密接に関わりながら、研究ネットワークを形成し、現地の課題に応じた研究活動を実施しました。
    ? 国際学術誌での発表
    若手研究者は、共同研究を通じて得られた成果を国際学術誌に発表し、国際的な認知を得た。そして、今後の共同研究の基盤を固めることができた。

    【9.その他の成果?今後の課題?展望等】
     本研究は、ラオスおよびタイの農村地域における学際的な研究を通じて、社会開発、保健医療、で顕著な成果を上げ、琉球大学とその協力機関が強固な学術ネットワークを形成しました。今後の課題としては、持続可能な資金調達や若手研究者の長期的支援が挙げられますが、これを解決するためには、外部資金を継続的に獲得するための不断の努力により参加研究者とりわけ若手研究者が活動しやすい環境を整備することが重要です。また、今回の日本、ラオス、タイのコーディネーターは定年退職や学長への就任等で研究の第一線を退くことから参加研究者への役割の継承展望としては、拠点機関間の連携強化や社会開発の実践的なモデルの構築が求められ、研究ネットワークの拡大や若手研究者の国際的な活躍の場を提供することが期待されます。これにより、持続可能な国際研究交流拠点が確立され、社会開発に貢献できる次世代研究者が育成されることが目指せます。

    本事業によって構築された国際研究協力ネットワークは次ページのCollaboration Chartの通りです。

     

    <論文情報>
    (1)? 雑誌名:The Formation of Cooperative Network for Bottom-up Approach in Rural Community Development of Lao PDR. National University of Laos, Vientiane, Lao P.D.R., 156p.?
    (2)? ?著者:Suzuki, Noriyuki, Seneduangdeth, Dexanourath, and Srisontisuk, Somsak (eds.) 2025.
    (3)? 国際標準図書番号(ISBN):978-9932-17-079-1
    (4)? ?URL: https://u-ryukyu.repo.nii.ac.jp/records/2021237