琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設の和智仲是助教と九州大学大学院農学研究院昆虫学分野の松井悠樹学術研究員は,マングローブ林だけに暮らす蛾であるオオウスグロハラナガノメイガを発見し,八重山諸島からの初記録として報告しました。 |
<発表概要>
オオウスグロハラナガノメイガ Hymenoptychis sordida Zeller, 1852 (図1)は,アフリカ?マダガスカル?インド-オーストラリア?太平洋の島々に広く分布することが知られています。日本では2004年7月に沖縄本島のマングローブ林で発見された数個体に基づいて初めて記録されたのみで,その後の新たな生息地についての記録はありませんでした。
図1. オオウスグロハラナガノメイガ?雄個体(和智仲是撮影)
今回,和智仲是助教は,環境研究総合推進費のプロジェクト「小笠原諸島における植物―昆虫相互作用網の保全に向けた情報基盤の確立と情報取得技術の開発」の一環として,小笠原諸島の昆虫の起源地の候補の一つである八重山諸島の昆虫の調査を実施しました。その中で,2022年の夏と2023年の秋に西表島?船浦のマングローブ林(琉球大学が国から借り受け,熱帯生物圏研究センター?西表研究施設が管理している演習林の一画; 図2)でノメイガ類の個体を発見?採集し,その同定を専門家であり,プロジェクトのメンバーでもある松井悠樹学術研究員に依頼したところ,国内での生息地がごく限られているオオウスグロハラナガノメイガであることが判明しました。
本種の幼虫は,海外ではマングローブ林床の落ち葉などの腐植質や藻類だけでなく,マングローブ植物の果実を餌とすることが知られていますが,日本において幼虫の生活史が確認されたことはなく,その実態の解明には更なる研究が必要です。
図2. 発見地付近の様子(和智仲是撮影)
<今後の展望>
小笠原諸島では,外来種のトカゲ?グリーンアノールの捕食の影響により多くの昼行性の昆虫が姿を消しています。その一方で夜行性の蛾類は小笠原諸島の自然の本来の姿を残していると考えられます。また, これらの蛾類の一部は,小笠原諸島固有の植物の送粉者であると考えられます。蛾類の多様性を調査することは小笠原諸島の植物―昆虫相互作用網を理解する上で重要です。しかし,小笠原諸島の蛾類には,分類学的な研究が進んでいなかったり,詳しい生態の分かっていない種も多く存在しています。例えば,今回のオオウスグロハラナガノメイガに近縁な小笠原諸島固有種のオガサワラハラナガノメイガもその一つです。オオウスグロハラナガノメイガについて詳しい生態を調べることは,近縁種であるオガサワラハラナガノメイガの未知の生態の解明にも繋がると考えられます。
また, マングローブは昆虫類の「見過ごされた多様性のホットスポット」とも言われており, 西表島の国内最大の面積を誇るマングローブの陸域にも未知の昆虫類をはじめとした動物が生息している可能性が高いと考えています。実際,大学の演習林を含む一帯のマングローブ林では,過去にも西表島固有の新種の甲虫?ヒルギカタジョウカイモドキや,日本初記録の樹上性のカニ?マルベンケイガニが発見されています。今後も演習林をはじめとする西表島のマングローブ林での調査を続けることで,マングローブに生息する昆虫類の多様性の全貌の解明にも取り組みたいと考えています。一連の研究を通じて,地域の生物多様性についての理解を深めることは,地域の生態系の保全と持続可能な管理に貢献できると信じています。
<謝辞>
本研究の知見は環境省?(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20224001)により実施した調査で得られました。
<その他>
当該地への入林にあたっては,琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設への使用申請書の提出が必要です。また,国立公園の第3種特別地域のため,環境省との間で許認可手続きが必要になる場合もあります。
<論文情報>
- 論文名:オオウスグロハラナガノメイガ ( チョウ目, ツトガ科, ヒゲナガノメイガ亜科 ) の八重山諸島からの初記録
- 雑誌名:Fauna Ryukyuana 69: 39-41
- 著者名:和智仲是* (琉球大学?熱帯生物圏研究センター?西表研究施設), 松井悠樹* (九州大学大学院?農学研究院?昆虫学分野)
*: 共同責任著者 - URL:https://u-ryukyu.repo.nii.ac.jp/records/2020359