平成30年4月6日
琉球大学
もしヒアリの野生コロニーが発見されたら...
蔓延を防ぐためどの範囲をどんな頻度でチェックすべきか
この度、東京工業大学博士課程大学院生の有子山 俊平氏と、辻 瑞樹 琉球大学 ?鹿 児島連合大学院教授(ペンネーム辻 和希)の共同研究グループはヒアリの早期発見と 駆除の戦略を理論的に提案いたしました。本研究成果は、2018年5月23日(水) に、英国の科学雑誌「Scientific Reports」にてオンライン掲載されております。 つきましては、取材?報道いただきますようよろしくお願い申し上げます。 |
記
日時:随時連絡可
内容:別紙のとおり
(問い合わせ)
琉球大学農学部
辻(tsujil@agr.u-ryukyu.ac.jp)
東京工業大学大学院
有子山(ujiyama.s.aa@m.titech.ac.jp)
琉球大学総務部総務課広報係
TEL:098-895-8175
もしヒアリの野生コロニーが発見されたら...蔓延を防ぐため
どの範囲をどんな頻度でチェックすべきか
<本研究成果のポイント>
? 今後、日本でヒアリの野生巣がもし発見されたら、どんな努力が必要か。
? 翅アリの飛行能力と巣の成長の既存データを元に理論計算したところ以下がわかった。
? 野生巣を見落としなくすべて発見し駆除するには、発見時の野生巣の成熟程度に依存し、巣の周囲46km を30m 間隔で、誘引力の高いベイト(餌)を置きヒアリの存否をチェックするモニタリングを、調査地点を 15m ずらしながら以後の2年間に最低2回調査する必要がある。これより調査範囲を狭めたりベイトの間隔を長くするとヒアリの蔓延を許してしまう。
? 本研究はヒアリの初期根絶のために投資すべき労力を世界で初めて理論的に示した。
<概要>
東京工業大学博士課程大学院生の有子山俊平氏と、辻瑞樹 琉球大学?鹿児島連合大学院教授(ペンネーム辻 和希)の共同研究グループはヒアリの早期発見と駆除の戦略を理論的に提案した。ヒアリは一旦野生個体群が定着(野外で自然に世代交代し個体群が維持される状態)すると根絶が極めて難しい。侵入初期段階の日本ではヒアリの早期発見と早期駆除に向けた戦略が必要である。今後最も懸念される状況のひとつに野生巣の国内発見がある。そのときには周囲に存在するかもしれない他巣をすべて発見し駆除せねばならない。しかしこのときどんな範囲にどんな調査努力を注ぐべきだろう。海外の先行事例では直感と経験に基づいて行われてきたようだ。本研究では翅アリの飛行能力と巣の成長速度の既存データから、初期根絶のために必要なモニタリング努力を理論的に提示した。それは、巣の周囲4 6km の範囲に強力な誘引餌を一定間隔でメッシュ状に置くヒアリ分布モニタリングを、以後の2 3年間に最低2回実施する必要があるということであった。これは定着後の初期根絶に世界で唯一成功したニュージーランドで実施されたモニタリング法(周囲5km内の精査)と概ね一致する。提示した計算式は数値を調整すれば他の外来生物にも適用可能である。本研究成果は、2018 年 5 月 23 日に、英国の科学雑誌「Scientific Reports」にてオンライン掲載されました。
<研究内容>
研究者からのコメント
今後必要になるかもしれない以下のような緊急ヒアリ対策を科学的に提言しています。ヒアリの野生巣がもし見つかったら、直ちに野生巣が発見された場所の周囲を4-6kmの範囲で、誘引餌を30mごとに網の目状に置くヒアリ分布調査を行うべきです。さらにこのあと、餌を置く場所を15mづつずらしながら2年程度の間に同じ調査を最低もう1回実施する必要があります。この調査でもし新たな巣がみつかったらアリを駆除すると同時に、そこを中心に同じ規模のモニタリング調査を再度する必要があります。これにはコストがかかりますが将来の日本の環境保全ためには必須です。なぜなら、駆除にかかるコストは一過性のものですが、被害は永続的だからです。初期駆除に失敗しヒアリが定着してしまうと、北米で年間6千億円ともいわれるのと相応規模の被害が、我が国においても未来永劫に続くことになるからです。
1.背景
昨年、特定外来種ヒアリの国内初侵入が発覚しました。ヒアリは生物多様性に甚大な被害を与える恐れがあり、刺されると重篤なアレルギー症状を引き起こすこともあることから「最悪の侵略的外来種」として警戒されていました。現在、ヒアリの定着阻止に向けた努力が全国的に展開されています。
日本におけるヒアリ対策上の重要課題は現在複数ありますが、それは(1)侵入ルートを断つこと、(2)侵入後の早期発見と駆除、そして(3)野生化した個体群の早期根絶があげられます。本研究は主に(3)に関するものです。
ヒアリの野生巣とは、コンテナヤード内のセメントの割れ目に一時的にできた巣ではなく、土の上にできた塚状の巣を指します(写真)。幸い、日本ではヒアリの野生巣はまだ見つかっていませんが、コンテナ船での海外からの侵入が相次いでおり、いつ野生巣が見つかっても不思議でありません。野生巣は放っておくと成長し、やがて大量の翅アリを飛ばし始めます(写真)。この翅アリが作った巣もやがて、日本の気候では3年程度で、翅アリを飛ばし始めます。こうしてヒアリがねずみ算式に増え分布範囲も急速に拡散してゆきます。この状態を野生定着と呼びます。野生定着後のヒアリを根絶させるのは至難の業だといわれています。(ヒアリには翅アリが長距離飛行をせず、巣の一部引っ越しで新巣ができる多女王タイプもありますが、本研究の主なターゲットは侵入後の分布拡大に大きく寄与するという意味で厄介な単女王タイプです。)
ですので、野生巣がもし見つかったら、この野生巣から飛び立った女王が作った巣など、近くの他巣をすべて発見し駆除せねばなりません。本研究では、このときどんな範囲にどんな調査をすれば野生化初期のヒアリ個体群を根絶できるのか、その戦略を理論的に提示しました。
2.研究手法?成果
まず、ヒアリの女王が生理的に可能な飛行距離を既存の文献で調べました。この情報から、巣から飛び立った翅アリの移動範囲を推定しました。移動距離は確率分布という形で計算されますが、これは気候やヒアリの野生巣が巣の成長のどの段階で見つかったのかに依存しますので、必要に応じ姉妹巣や子孫巣から翅アリが飛行分散している可能性についても考慮します。
次に、ヒアリの巣の成長速度と、成長したヒアリの巣の縄張りの広さに関する文献情報から、どんな範囲をどんな密度と頻度で、ヒアリの調査を行うべきか検討しました。文献情報からは、成熟したヒアリの巣の縄張りは塚から半径 20m の範囲であり、巣は完全に成熟するまで日本の気候では3年程度かかることがわかりました。ヒアリは巣が小さいときは塚を作らないので、ここでは誘引餌(ベイト)による調査を前提にしています。海外の研究では、地下に蟻道が張り巡らされた「縄張り」上に、ヒアリが好むソーセージやコーンスナックなどの誘引餌を置くと、地下に隠れているヒアリを高確率で発見できることがわかっています。
以上の情報から、ヒアリの野生巣がもし見つかったら、野生巣が発見された場所の周囲 4-6km の範囲で、誘引餌を 30m ごとに網の目状に置くヒアリ分布調査を直ちに行うこと。さらにこのあと、同調査を誘引餌を置く場所を15m づつずらしながら2年程度の間に最低もう1回実施すること。そして、これら調査でもし新たな巣が見つかったら駆除すると同時に、そこを中心に同じ規模のモニタリング調査を再度する必要があること。これで定着初期のヒアリが根絶できることを理論的に示しました。調査を複数回行う必要があるのは巣の見過ごし対策です。たとえば、小さな巣は誘引餌でも発見できない可能性がありますが、時間をおき成長した後ならば、発見できる確率が上がるのです。野生巣発見後の根絶に世界で唯一成功しているニュージーランドでは、巣周囲5km 以内の数年にわたる精査がされましたが、このモニタリング範囲は本研究が理論上薦めるものと一致しています。
モニタリングには短期的には相応のコストがかかりますが、将来の日本の環境保全ためには躊躇せず直ちに実行せねばなりません。ヒアリの分布拡大には、上記理論が考慮したプロセス以外にも、ヒトの活動に伴った人為分散(たとえばヒアリ女王が隠れている土が遠くに運ばれる)や風の影響による長距離分散も考えられます。これらに対応するには、我々の提案した方法以外の方法、たとえば生息適地を事前に推定しておく生態ニッチモデリング等との併用が必要です。いずれにせよ野生定着後は初期であっても根絶には大きなコストがかかります。いうまでもありませんが、今の日本では(1)侵入ルートの遮断、(2)侵入後の早期発見と駆除という、定着前ヒアリ対策も充実させるべきです。このような努力をもし怠れば初期駆除に失敗するでしょう。ヒアリが広範囲に定着してしまうと、北米で年間6千億円ともいわれる経済被害と相応規模の被害が、我が国においても未来永劫に続くことになるからです。
なお数値計算にはヒアリの移動分散距離や巣の成長のデータを用いましたが、そのようなデータがもし得られればモデル自体はヒアリ以外の生物種にも適期可能です。
<書誌情報>
[DOI]
10.1038/s41598-018-26406-4 1
論文タイトル:
Controlling invasive ant species: a theoretical strategy for efficient monitoring in the early stage of invasion
著者:
Shumpei Ujiyama1* & Kazuki Tsuji2
*)責任著者
著者の所属機関
1.東京工業大学大学院 環境?社会理工学院
2.琉球大学農学部?鹿児島大学連合大学院連合農学研究科(兼任)
ジャーナル名
Scientific Reports
<お問い合わせ先>
氏名: 辻(tsujil@agr.u-ryukyu.ac.jp)、有子山(ujiyama.s.aa@m.titech.ac.jp)。
なお著者らは現在出張中です、至急の連絡先は琉大広報にお尋ね下さい。