琉球大学理工学研究科の中島広喜氏(日本学術振興会特別研究員DC2)と、沖縄県立芸術大学の藤田喜久教授、島根大学の大澤正幸客員研究員の3名が、沖縄県恩納村の海底洞窟から新種のヤドカリを発見しました。海底洞窟環境における生物の種多様性に関する貴重な知?の追加となります。 |
<論文の概要>
琉球大学理工学研究科博士後期課程2年の中島広喜氏(日本学術振興会特別研究員DC2)が、沖縄県立芸術大学の藤田喜久教授、島根大学の大澤正幸客員研究員と共に、沖縄県恩納村の海底洞窟から新種のヤドカリを発見し、国際科学誌「Zootaxa」に公表しました。
研究背景
琉球列島の海底洞窟における生物相研究は藤田教授を中心として精力的に進められており、複数の新種を含む多数の生物が生息していることが近年わかってきています。沖縄の海底洞窟からは、これまでに30種のヤドカリ類(注1)が記録されており、本研究の共著者である大澤博士や藤田教授の研究により、新種のヤドカリも発見されてきました(注2)。
2023年7月、筆頭著者(中島氏)は藤田教授らによる恩納村の海底洞窟調査に参加し、洞窟内でのダイビング調査を行いました。調査地は半水没した通路状の海底鍾乳洞が水平方向に広がり、水深はそれほど深くありません。地中を通って染み出した淡水の影響を受けているアンキアライン環境(海水と淡水が混じった地下水域)となっており、小規模ながら独特の景観?環境が広がっていました(図1)。この恩納村の海底洞窟からはごく最近、洞窟という暗所へ適応したことで眼は退化し体が白くなっているという特徴的な形態をもつカニ、ヨミノショウジンガニが発見されています(注3)。こうしたことから、珍しい生物の発見を期待しての調査でした。
今回のヤドカリは、洞窟の入り口から30 mほど奥、水深1 m程度の場所で発見しました。このヤドカリは脚を広げても1 cm未満と非常に小さいものでした(図2)。現地では数度調査を行ったものの、最初に潜った時に著者が採集したこの1個体しか発見されていません。実はその時が著者にとって初の海底洞窟における潜水調査だったため、いわゆる“ビギナーズラック”によって発見できたのかもしれません。
図1.調査した洞窟内の様子。ライトを消すと完全に暗黒となる。(撮影者:藤田喜久)
図2.宿貝から抜き出した状態。下の目盛りは1 mm刻み。(撮影者:中島広喜)
研究成果
採集したヤドカリを研究室に持ち帰り、外部形態をよく観察した結果、ヤワクダヤドカリ属Trichopagurusというホンヤドカリ科のグループに属することがわかりました。この属はこれまでに4種のみがインドー西太平洋域から知られており、全種の文献情報と今回の標本を比較しました。その結果、今回の標本は鉗脚(かんきゃく:ハサミ脚のこと)の側縁に多数の棘を備えるなどの形態的特徴から、明らかに未記載種(注4)であることが判明しました。そこで今回の論文では、この種をドウクツヤワクダヤドカリTrichopagurus spinibrachiumとして新種記載しました。ちなみに種小名のspinibrachiumは、棘(spina)、腕(brachium)という意味のラテン語を組み合わせたもので、腕のように見える鉗脚に多くの棘を有するという、本種の特徴的な形態に由来します。
今後の展望
今回の研究では、洞窟が本種の発見地であることから、和名としてドウクツヤワクダヤドカリと名付けました。しかし、どの程度洞窟に依存する種で、どのくらいの数が生息しているのかなど、生態的な情報は全くありません。今回の新種ヤドカリのみならず、近年になって、多数の生物が琉球列島の海底洞窟環境から見つかっていることからも、海底洞窟環境における生物の知見は未だ不足している状態であると言えます。したがって、今後の継続的な調査は必要不可欠であり、それによってさらなる新種の発見にとどまらず、生態系や生物多様性を考える上で重要なことが分かってくるはずだと考えています。
研究費
本研究は、藤田喜久教授を代表研究者とした日本学術振興会の科学研究助成事業(科研費:No. 20H03313)の支援を受けて行われたものです。また、中島氏は特別研究員奨励費(科研費:No. 23KJ1783)の支援を受けています。
<論文情報>
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タイトル:A new species of the genus Trichopagurus de Saint Laurent, 1968 (Crustacea: Decapoda: Anomura: Paguridae) from a semi-submerged marine cave in Okinawa Island, southwestern Japan (沖縄島の半水没海底洞窟より発見されたヤワクダヤドカリ属Trichopagurus de Saint Laurent, 1968の新種)
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雑誌名:Zootaxa
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?著者:Hiroki Nakajima (中島広喜)1*, Yoshihisa Fujita (藤田喜久)2 & Masayuki Osawa (大澤正幸)3
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所属:1琉球大学理工学研究科、2沖縄県立芸術大学、3島根大学エスチュアリー研究センター