平成30年10月24日
国立大学法人 琉球大学
八重山の地殻歪が変化すると、西表島の地震が活発化する
琉球大学理学部の中村衛(なかむら まもる)教授と大学院生の金城亜祐美(きんじょう あゆみ)は、西表島の地震活動が地殻の歪変化によって定期的に活発化していることを新たに発見しました。研究成果は国際誌「Earth and Planets Science」に受理され、平成30年9月27日付けでオンライン公開されました。 |
【背景】
西表島周辺は地震活動が活発な地域です。今年も3月1日にM5.6の地震が起こりニュースになったことは記憶に新しいと思います(図1)。この地震の原因を探るために八重山諸島の地震活動を解析したところ、西表島南部の地震活動が2002~2005年と2013年以降に活発化していたことが明らかになりました(図2)。地震活動を長期的に活発化させる要因として、周辺での大地震?群発地震活動とゆっくり地震(スロースリップイベント、アフタースリップ)による地殻の歪変化(地盤の変形)が考えられます。しかし、そのような地震活動による歪変化が西表島で地震活動を活発化させたのかどうかは分かっていません。
そこで活発化の原因を探るため、国土地理院のGNSS(全球測位衛星システム)観測データを使って西表島を含む八重山諸島での地殻の歪変化を調べました。地震活動はETASモデル(地震活動の標準モデル)を用いて、活動の変化が起こった時期を分析しました。
【成果】
地殻の変形を計算した結果、八重山諸島は常に北東-南西方向に伸張している中で、約半年の周期で南北方向の収縮と伸張を繰り返していました(図3、図4)。これは西表島直下で繰り返すスロースリップイベントによる歪の蓄積と解放を反映しています。
その中で2002年頃、八重山諸島の変形が一時的に大きくなりました(図2、図4)北西-南東方向に伸張し北東-南西方向に収縮する変形が強くなりました。さらに2012年以降、今度は北東-南西方向に伸張する変形が強くなりました(図2、図4)。これら2002年と2013年におこった変形の増加はそれぞれ、2002年1月後半と2013年5月中旬ごろに始まった西表島南西部の地震活動活発化の時期と一致しています(図2)。
これらの歪増加はそれぞれ異なった要因によって生じています。2002年の歪増加は与那国南部のアフタースリップで生じました。2013年の歪増加は与那国北方沖の沖縄トラフで発生した群発地震活動によるものです。
2018年現在でも強い変形(歪速度)の状況が弱まりつつも継続しています。2018年3月の西表島南部の地震も、この強い変形の状況下で発生したと考えられます。
【意義?課題】
今回の研究から、八重山諸島では地震活動の変化を通して地下の歪変化を捕らえることができることがわかりました。
もう一つは、西表島群発地震の発生原因を探る鍵が見つかりました。1991年~1993年に西表島で群発地震が発生しています。しかし、なぜ群発地震が発生したのかは未だ謎のままです。西表島付近の地震活動が歪変化に敏感に反応することから考えると、西表島群発地震が発生した当時も、この地域で歪速度の変化があったのかもしれません。
【論文名】
著者:Nakamura M. and Kinjo, A.(中村衛?金城亜祐美)
題目:Activated seismicity by strain rate change in the Yaeyama region, south Ryukyu.
論文誌: Earth, Planets and Space (2018) 70:154.
DOI:10.1186/s40623-018-0929-y
図1:八重山諸島の地図。点線の領域は地震活動の変化が見られた地域を示す。