研究成果

砂にもぐるサンゴの一生 ~タマサンゴのライフサイクルを世界ではじめて解明~ 目標14:海の豊かさを守ろう

 琉球大学理学部千徳助教らの研究チームによる研究成果が、国際学術雑誌「Scientific Reports」誌に掲載されました。
 

<発表のポイント>

■沖合の砂泥底にすむタマサンゴにおいて、これまで謎だったその一生(ライフサイクル)を明らかにしました。
■タマサンゴは玉のような丸い形で砂に潜りますが、その子ども時代は海底に転がる貝殻片などに付着して暮らし、砂にも潜らないことがわかりました。
■砂に潜るタマサンゴは固着性のタマサンゴが無性生殖による自切で形成していました。
■これまで手付かずだった沖合の海底にすむサンゴ類の生態解明や保全につながる重要な一歩となります。

 

 

<発表概要>
 イシサンゴ類は現在のサンゴ礁を構成する主要な動物です。サンゴ礁域での赤土流出が問題となっているように、一般に、イシサンゴ類は砂や泥などの堆積物の埋積に脆弱な生物です。しかし、イシサンゴ類全体の約25%に相当する、300種以上が沖合の砂泥底に生息しています。琉球列島をはじめ日本近海にも直径が1cmに満たない小さなイシサンゴ類が、沖合の海底に多数生息しています。


図1:生活様式や形態が大きく異なるタマサンゴの骨格(同種)

 

 そのような生態をもつ代表的なサンゴがタマサンゴです。タマサンゴは本来砂が苦手なイシサンゴ類のなかまでありながら、海底の砂の中に潜って暮らしていることが最近明らかとなりました(Sentoku et al., 2016)。しかし、小さなこども時代の骨格が見つかっておらず、その一生は謎のままでした。そこで、本研究では、日本近海の沖合砂泥底に生息するツツミサンゴ科(Turbinolliidae)のタマサンゴ(Deltocyathoides orientalis)と、タマサンゴ(図1の写真上)と一緒に採集されることが多いが、何のなかまのサンゴか分かっていなかった小さな固着性サンゴ(図1の写真下)について、DNAを抽出し、分子系統解析を行いました。
 
 その結果、これら2つのサンゴは同種であることがわかりました。しかし、骨格の基本的な構造が全く異なっているばかりか、砂の中に潜って暮らす成長したタマサンゴと貝殻片などに引っ付いて海底表面に暮らすタマサンゴでは、その生き方まで全く異なっていました。そこで、デジタルマイクロスコープを用いて両者の骨格の構造を詳細に観察し、固着性のタマサンゴから、砂に潜れるタマサンゴにどのように成長するかその過程を調べました。

 その結果、貝殻片などに固着した小さな円柱状の個体から、横分裂と呼ばれる骨格を上下に分割する分裂方法(自切)を用いて、砂に潜れるタマサンゴを無性的に形成していることが分かりました。さらに、こども時代の個体では、将来切り離す部分の骨格だけが砂に潜れるタマサンゴの形態に成長しており、横分裂により切り離された個体がすぐに砂に潜れるように、貝殻片に固着していた時から将来を見越した周到な準備がなされていました。砂に潜ることは、捕食者から身を守ることにつながり、切り離した個体の生存の可能性が飛躍的に上昇すると考えられます。


図2:タマサンゴのライフサイクル

 

 横分裂により切り離され砂に潜る形態となったタマサンゴは(図2DとE)、それ以上分裂はせず、精子と卵子を用いた有性生殖のみを行い次の世代を残します。一方、そのような有性生殖により誕生した固着性のタマサンゴは(図2AとB)、成長と横分裂を繰り返し行うことで(図2CとD)、砂に潜るタマサンゴを作り続けます。このようにタマサンゴはその一生(ライフサイクル)の中で、固着性の無性生殖世代と、砂に潜って自由生活する有性生殖世代とに完全に役割分担をする世代交代を行っていました。

 軟底質へ潜行し生息するイシサンゴの発見は、本来、堆積物による埋積に脆弱なイシサンゴが、強い障害を逆に活用し、適応放散した事例としても非常に重要ですが、その能力の進化に無性生殖がかかわっていたことは、重要な発見です。この研究成果は、本来堆積物に脆弱なイシサンゴ類がどのように軟底質に適応してきたのかを知る手がかりになるだけでなく、これまで手付かずだった沖合の海底にすむサンゴ類の生態解明や保全につながる重要な一歩となります。

 

<引用文献>
Sentoku, A., Tokuda, Y. & Ezaki, Y. (2016) Burrowing hard corals occurring on the sea floor since 80 million years ago. Sci Rep 6, 24355. https://doi.org/10.1038/srep24355

<論文情報>
(1)??? 論文タイトル Dimorphic life cycle through transverse division in burrowing hard coral Deltocyathoides orientalis
          (砂に潜るタマサンゴに認められた横分裂による世代交代)

(2)??? 雑誌名  Scientific Reports

(3)??? 著者 Asuka SENTOKU*, Keisuke SHIMIZU, Tsubasa NAKA, Yuki TOKUDA 千徳明日香1*、清水啓介2、名嘉翼1、徳田悠希3
        所属 1.琉球大学 理学部物質地球科学科、2.東京大学 大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻、3.公立鳥取環境大学 環境学部 *責任著者

(4)??? DOI番号 https://doi.org/10.1038/s41598-022-13347-2


【研究サポート】
 本研究は、科学研究費補助金(18K13649,20K04147,B18H03366A,21K14032)、公立鳥取環境大学特別研究費のサポートにより実施されました。