研究成果

南琉球の前弧域で得られた堆積物(柱状コア試料)から、過去20万年間の巨大地震?津波の履歴を探る 目標4:質の高い教育をみんなに目標11:住み続けられるまちづくりを目標13:気候変動に具体的な対策を

 

    琉球大学理学部の新城竜一教授(総合地球環境学研究所客員教授)らを含む国際研究チームによる成果が、学術雑誌「Sedimentology」誌に8月31日に掲載されました。
     本件に関する取材については、下記のとおりになりますので、よろしくお願いします。
    <発表のポイント>
    ?八重山諸島南方の前弧海盆で採取した堆積物のコアを解析し、過去20万年間にわたる大規模重力流(タービダイト等)を高精度に時系列で判別した。
    ? 直近2万年間では24件、20万年間では計48件の大規模イベントを認定した。イベントの平均間隔を約3,500?4,000年と推定した。
    ? イベント頻度は、石垣島などの沿岸で確認された津波堆積物の記録(過去数千年)と整合的である。
    ? 4件の「特異的に大規模な堆積物(Homogenite)」を新たに特定した。発生要因は未解明であるが、巨大地震?大規模斜面崩壊などの関与が示唆される。
    ? 深海堆積物は、計器観測で把握できない超長期スケールの地震?津波履歴を補完し、南琉球域の長期ハザード評価に有用である。

    <発表概要>
    琉球大学理学部物質地球科学科 新城 竜一 教授と大学院生の相澤 正隆 氏(現?北海道教育大学 講師)は、フランスの海洋調査船R/V Marion Dufresne号を用いた2018年のフランス-台湾合同調査MD214(EAGER)航海に同行しました。この航海調査では南琉球の前弧にあたる波照間海盆と外縁隆起帯において、4地点で堆積物の柱状コアを採取しました(図1、2)。コアの長さは約13.4 mから23.6 mです。得られたコアの堆積物を対象に(図3)、放射性炭素年代、酸素同位体層序、U?Th系列核種による堆積物の年代推定、さらに火山灰(火山ガラス)の主成分?微量元素およびHf–Pb–Sr–Nd同位体比によるテフロクロノロジーを組み合わせて、重力流堆積物(タービダイトなど)の層序と起源を精査しました。その結果、海盆の底では半遠洋性堆積物の堆積速度が1000年間で3?8 cm(局所的には、1000年間で60 cmより大きい)であること、過去2万年間に24件、そして過去20万年間では48件の大規模な重力流イベントが発生したことを明らかにしました(図4、5)。これらのイベントは、マグニチュード7以上の巨大地震およびそれに伴う大津波が、千年スケールで繰り返し起こったことを示しています。特に、4つの大規模な堆積物(Homogenite)層は規模?広がりの点で他と一線を画し、その発生機構の解明は今後の課題ですが、巨大地震および津波に関係している可能性が高いと考えられます。
    なお、本航海では台湾南方海域において初めてメタンハイドレートの採取にも成功しています(/news/536/)。


    図1 南琉球の海溝から背弧(沖縄トラフ)にかけての海底地形図。黒枠内の波照間海盆が調査された海域。

    <詳細な説明>
    本研究で対象とした海域は、南琉球の前弧にあたる波照間海盆(水深が約3,300–3,600 m)と外縁隆起帯の小海盆です(図2)。この海盆への主要な堆積物の供給は、八重山諸島の陸棚や斜面から延びる海底谷地形に沿って生じています。調査?研究では、長寸のピストンコア(MD18-3528/-3529/-3530/-3531)および同位置でのボックスコアによって堆積物を採取しました。これらの堆積物について、MSCL物性、粒度、XRFコアスキャナ(Ca/Fe, Zr/Rb等)、放射性炭素、短寿命核種、酸素同位体、テフラの主成分?微量元素?同位体分析を行いました。堆積物の色調?構造?粒度?化学指標?X線画像等を総合判定してイベントの認定を行いました(図3)。上位の半遠洋性泥との鋭い境界や級化層理、Ca/Fe?Zr/Rbの急変などを根拠に、土砂を多量に含んだ流れが堆積した層であるタービダイト層を抽出しました。分析の結果、地域スケールでの大規模重力流イベントは、過去20万年に48件(平均3,500?4,000年/回)あったことを認定しました(図4、5)。特に、直近の2万年間では24件を特定しました。これは、石垣島などの陸上記録(トレンチ調査)に基づく過去4千年の大津波再来(約600?1,000年)と整合的です。つまり深海の堆積物の記録から得られた広域イベント記録と相補的であることを示しています。測器による記録が乏しい地域でも、前弧域の深海堆積物は巨大地震?津波の長期履歴を保存しており、非常に長期にわたる地震?津波のハザード評価に不可欠であることを示唆しています。

    図2 波照間海盆周辺の詳細海底地形図。赤丸(MD18-3528?3531)が本研究で堆積物コアを採取した地点。青矢印の線は、波照間海盆へ重力流堆積物が供給されたと推定される主なルート(八重山諸島から前弧へかけて発達する海底谷地形群)を示す。出典:本論文のFig. 2

    図3 A: ピストンコアの機材を海底へむけて投入するところ。B: 同じ地点で一番表層の堆積物層のみを採取するための採泥装置を投入するところ。C: 採取されたコアの塩ビパイプに番号をふっているところ。このあと1.5mの長さ(黒テープが目印)に切断する。D: 半分にカットしたコアの内部を観察しているところ。半遠洋性の泥の層に砂質堆積物が多数挟まっている様子。(Photo: 新城竜一)

    図4 近傍の既存コア(KR15-PC03)と本研究による4つのコアの比較。緑色は半遠洋性粘土質堆積物、黄色は砂質堆積物(タービダイト)、紫色が約10万年前の阿多火山灰層を示す。MEがメガ?イベントを示し、灰色均質粘土質堆積物である。出典:本論文のFig. 12

    図5 波照間海盆に規模の異なるイベント(Typhe-1から3)によって堆積物がたまる様子。右下のTyphe-3のイベントが最も規模が大きく、タービダイト、大規模堆積物、水中土石流堆積物の3つのイベントが重なっている。このイベントは20万年間で4回生じた。出典:本論文のFig. 13

     

    <用語説明>
    ?柱状コア
    「柱状試料」とも呼ばれ、柱の形をしたチューブを海底面に突き刺して採取された試料のことを指す。

    ?重力流堆積物(タービダイト/デブリタイト)
    斜面不安定化で発生した濁流や土石流が深海底に運搬?堆積した層。地震や津波、斜面崩壊が誘因となる場合がある。

    ?半遠洋性堆積物
    深海で緩やかに沈降?堆積する泥質堆積物。イベント層の間を埋め、長期の背景堆積を示す。

    ?テフロクロノロジー
    遠隔地に降下?堆積した火山灰(火山ガラス)の化学組成?同位体を用いて年代指標(鍵層)とする編年手法。

    <論文情報>
    1. 論文名:Sedimentary record of submarine gravity-flow events in the southern Ryukyu forearc during the last 200,000 years: archive of mega-earthquakes and tsunamis
    2. 著者:Nathalie Babonneau, Gueorgui Ratzov, Charlotte Guerin, Mira Richa, Serge Lallemand, Michel Condomines, Patrick Bachelery, Delphine Bosch, Shu-Kun Hsu, Chih-Chieh Su, Ryuichi Shinjo, Andrew Lin, Maria-Angela Bassetti, Marie Revel, Antonio Cattaneo, and the EAGER scientific team
    3. 掲載誌:Sedimentology(オープンアクセス, Wiley)
    4. 掲載日:2025年8月31日(オンライン)
    5. DOI:10.1111/sed.70043