琉球大学では、人から採取した細胞を加工?移植して病気や怪我などで機能を失った組織や臓器を修復?再生する「再生医療」の研究と社会実装に取り組んできました。形成外科学講座を中心に、これまで顔面変形や包括的高度慢性下肢虚血を対象とした治療を実施し、2023年10月からは形成外科と整形外科が連携して「変形性関節症」に対する自己脂肪幹細胞投与治療を開始しました。現在までに3名の患者さんに対して治療を行い、良好な経過を得ています。 |
<発表概要>
? 琉球大学形成外科の研究グループはこれまで、人から採取した細胞を加工?移植して失われた組織や臓器を再生する「再生医療」の研究と社会実装に取り組んできました。脂肪組織に含まれる脂肪幹細胞を原材料に、上顎洞がん治療後の顔面変形に対する治療*1を実施し、また第二外科および臨床薬理学講座と連携し動脈硬化症や糖尿病に起因する包括的高度慢性下肢虚血を対象とした治験*2も実施しています。2023年10月からは、形成外科と整形外科が連携して「変形性関節症」に対する自己脂肪幹細胞投与治療を開始しました。変形性関節症は加齢、体重増加、関節の酷使などが原因で生じ、本県でも高齢化?肥満化の進展とともに患者さんが急増しています。琉球大学病院では現在までに3名の患者さんへの治療を実施しています。
変形性関節症を対象とした再生医療をさらに発展させる試みとして、琉球大学ではこのたび、プロスポーツアスリートに対する「スポーツ再生医療」の取組に着手しました。その第一号として、マスターズ陸上 400メートルリレーで世界新記録を出した沖縄県出身の譜久里 武 選手に対し、2024年9月4日に琉球大学病院にて再生医療を前提とした脂肪吸引手術を実施しました。今後は譜久里選手から採取した脂肪幹細胞を培養し、関節腔内に投与することで炎症を抑えて痛みをなくし、結果的に選手寿命を延ばすことを目指しています。従来からの患者さんに加え、年齢や体格、関節の酷使の状況が大きく異なるプロスポーツアスリートを新たな治療対象とすることは、変形性関節症に対する再生医療の発展に大きく寄与するものと考えています。
? 沖縄県は冬場の温暖な気候を利用して、県内外から多くのスポーツ選手が集まります。プロ野球12球団のうち9球団が沖縄でキャンプを実施し、また琉球ゴールデンキングス(バスケットボール)やFC琉球OKINAWA(サッカー)など地元のクラブチームも人気を集めています。沖縄県はスポーツ振興を通した産業振興に取り組んでいますが、琉球大学がここに「スポーツ再生医療」という新たな取組を加えることで、海外を含む一流のスポーツ選手が質の高い治療を受けるために沖縄に来県する契機を作っていきたいと考えております。これは沖縄県が掲げる新?沖縄21世紀ビジョン基本計画の一つである「スポーツアイランド沖縄」形成の主旨にも合致しています。
【参考】
- 再生医療
? 病気や怪我などで機能を失った組織や臓器を修復?再生する治療で、従来の治療法では効果が得られなかった患者さんに対する新たな治療として注目を集めている。研究段階から実用化段階に至った技術も増えてきており、世界の再生医療関連市場は2020年の1.1兆円から2030年には12兆円、2050年には38兆円と急速に拡大することが予想され、今後の医療の発展に欠くことのできない分野であると認識されている。 - 変形性関節症
? 関節の軟骨がすり減り、変形や痛み、腫れを引き起こす慢性的な疾患。関節の変形は数年から数十年をかけて進行し、最終的には関節の動きに制限が生じて日常生活に支障をきたすようになる。原因は加齢による関節軟骨の老化、体重増加、関節の酷使や外傷などで、膝関節、股関節、肩関節、肘関節、背骨などに起こりやすい。主な治療法としては運動療法やリハビリテーション、薬物療法や外科手術があるが、近年では再生医療による治療も行われるようになっている。 - 脂肪幹細胞
? 全身の脂肪組織に含まれる幹細胞で、脂肪組織だけではなく骨、軟骨、心筋、血管を形作る細胞に分化する能力を有している。採取が比較的容易で量も多いため、医療の分野では抗炎症、創傷治療、免疫調節、新生血管形成などへの応用が進められている。再生医療においては、腹、尻、太ももの皮下脂肪に含まれる脂肪幹細胞を採取して利用する。 - スポーツ再生医療
? 競技中に生じた外傷や関節の障害などの症状を改善する目的で再生医療の技術を応用する治療法を指す。従来の治療法に組み合わせることによって治療期間の短縮や早期の競技復帰が期待されている。現在行われているものとしては、脂肪幹細胞の損傷部位への投与や多血小板血漿の疾患部位への投与などがある。再生医療のメリットとしては、従来の治療法よりも長期間の治療効果が期待できる、自己由来の細胞を用いるため拒絶反応やアレルギー反応のリクスが低い、治療期間が短く早期の競技復帰が可能、身体への負担が大きい外科手術を回避できる可能性がある、などがあげられる。
これまでの琉球大学の取組
*1 琉大病院HOTLINE 第61号
? ?https://www.hosp.u-ryukyu.ac.jp/hotline/201604/hotline61-2.html
*2 琉球大学公式ホームページ News 2022年9月15日
???/news/37715/
左から譜久里 武 選手、東 千夏 講師(整形外科)、清水 雄介 教授(形成外科)