学部卒業生ならびに大学院修了生の諸君、卒業?修了、誠におめでとうございます。琉球大学を代表して、心から祝福いたします。
新型コロナウイルスの勢いがなかなか収まらない中、卒業生?修了生諸君と一堂に会し、令和2年度 琉球大学卒業式ならびに大学院修了式を挙行できることを、誠に嬉しく思います。卒業生?修了生のご家族、ご来賓、同窓の皆様とこの場をご一緒できないことはたいへん残念ですが、皆様とはインターネットで繋がっています。皆様がこれまで卒業生?修了生を物心ともに支えてくださったことに感謝するとともに、心からお祝いを申し上げます。
今回、めでたく卒業?修了を許可されたのは、学部学生 1,416 名、大学院学生 254 名、 総計 1,670 名です。琉球大学は、これまでに8万5千人を超える卒業生?修了生を社会に送り出してきました。彼ら彼女らは、沖縄地域を、日本社会を、そして世界の諸活動を支えています。今年度の卒業生?修了生の諸君が、社会で活躍するそうした先輩たちの中に、新たに加わってくれることをたいへん心強く思います。
諸君の学業の最後の1年は、世界が、日本が、そして地域と大学が、新型コロナウイルスとの格闘を続ける1年でした。その中で、よく頑張って勉学に励んでくれました。諸君の頑張りに敬意を表します。諸君を無事社会に送り出せること、感無量であります。 コロナ拡大防止のため、諸君への教育や学修支援が、平常時とは違って、思うようにできなかったことなどはたいへん心残りですが、一方で平常時とは異なった状況の中で、通常では得られなかった新たな学びや気づきを得てくれていればと願っています。
少し私自身の経験をお話します。今から半世紀ばかり前のことになりますが、私が大学生であった頃は、いわゆる大学紛争の時代でした。全国の多くの大学と同様、私の大学も授業が半年以上ありませんでした。今振り返ると、得られるはずのものが得られなかったということがあった半面、通常では得られなかった学びを得た面もあったように思います。たとえば、いわゆる自主ゼミというものをたくさんやりました。その中で、自分たちで主体的に行動するということも含め、学べたことも多かったように思います。コロナ禍の今は状況が異なりますが、諸君も通常では得られなかった種々の新たな学びや気づきを得てくれているよう願う次第です。
さて、諸君が巣立っていく社会に目を向けてみましょう。欧州で200年余り前に始まった産業革命によって生じた工業化社会は、化石燃料に依存した大量のエネルギーを消費して成り立つ、大量生産?大量消費の労働集約型社会でしたが、これがいま、知識集約型社会へと急速に変貌しつつあります。これから諸君が加わろうとしている社会は、あらゆるモノやコトがインターネットに深くつながり、そこに人工知能(AI)が介在する「超スマート社会」へと向かっています。地球環境問題、富の偏在、働き方のひずみなど、大きな問題を抱えて行き詰っている工業化社会を乗り超えるために、そして来るべき新しい社会をより良いものにするために、諸君が大いに活躍してくれることを期待します。
諸君が社会で働くときに大事なのは、しっかりした知識とそれをうまく活用できる思考力です。この基礎を諸君は大学で学びました。諸君には、それを活かして、世界と社会の変化の方向性を長い時間軸で見すえ、社会のそれぞれの持ち場で、時代を適切にリードする働きをしてほしいと思います。
ところで、「コロナは未来を10年早く連れてきた」と言われます。コロナ禍の前から速かった時代の変化は、ますます速くなっています。また、社会の変化とともに、科学の進歩にも目覚ましいものがあります。その結果、諸君が学んだ知識も急速に古びていきます。諸君が生きる時代は「人生100年時代」です。若い時に一度学べばよいという時代は過ぎ去りつつあります。急速に変化する社会で長く活躍し続けるためには、知識を折々に学び直し、また考える力を常に磨き続ける必要があります。
ここで、ある言葉を紹介しましょう。「学而不厭」(がくじふえん【学びて厭(いと)わず】)という言葉です。これは、琉球大学附属図書館の入口に掲げられている扁額にある言葉ですが、諸君の記憶に残っているでしょうか。「学而不厭」とは「論語」の一節より引用したもので、「学び、学び、そして学ぶ。決してあきるということはない」という意味です。この扁額は、1949年、日本で最初にノーベル賞を受賞し、敗戦直後の日本に大きな励ましを与えた京都大学教授?湯川秀樹博士が、1963年1月に本学に来学された折に揮毫したものです。湯川先生はまた、これをある意味で平易に言い換えた「一日生きることは、一歩進むことでありたい」という言葉を残しています。これらの言葉を諸君に送ります。学び続けて、大いに活躍してください。
諸君の母校となる琉球大学は、地域に貢献する大学、世界との懸け橋になる大学として、その活動をさらに活発に行っていきます。諸君、今後は先輩として後輩を、同窓生として母校を、力強く支援していただければと思います。そして学び直しには、母校を積極的に活用してください。いつでも歓迎いたします。
結びに、諸君のこれからの大いなる健闘と、それぞれの人生の幸多からんことを心から願って、私からのお祝いの言葉といたします。
令和3(2021)年3月23日
国立大学法人 琉球大学
第17代学長 西田 睦