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琉球大学農学部 柳澤隆平さん、諏訪竜一 准教授、立田晴記 教授、及び国立研究開発法人森林研究?整備機構森林総合研究所 高梨琢磨 主任研究員らの研究チームによる研究成果が、「Applied Entomology and Zoology」(日本応用動物昆虫学会英文誌)に掲載されました。
<発表のポイント>◆どのような成果を出したのか ◆新規性(何が新しいのか) ◆社会的意義/将来の展望 |
<発表概要>
(1)今回の成果について
- 琉球大学農学部 博士課程の柳澤隆平さん(鹿児島大学大学院連合農学研究科)、諏訪竜一 准教授、立田晴記 教授、および国立研究開発法人森林研究?整備機構森林総合研究所の高梨琢磨 主任研究員らの研究グループは、侵略的農業害虫であるタバココナジラミの物理的防除方法について研究してきました。昆虫は植物のような固体を伝わる振動や音を知覚し、逃げ出したり、動きを止めるといった様々な行動を起こすことが知られています。こうした昆虫の性質を応用し、人為的に振動や音を与えて昆虫の行動を変化させることで植物への定着を防ぐ害虫防除技術が注目され始めています(Takanashi et al。 2019)。今回、我々は植物体に振動を与えることにより、従来の方法では防除が難しいタバココナジラミの植物体上での個体数を減少させられるかどうかを調べました。その結果、振動を与えていないトマトとくらべ、振動を与えたトマトではコナジラミの密度が大きく減少することが明らかになりました。
- ? ?タバココナジラミBemisia tabaci (Gennadius)はトマトをはじめとした様々な野菜、観葉植物、花き類を加害する重要農業害虫です。この害虫はほとんどの化学農薬に対して薬剤耐性を発達させ、暖かい環境では爆発的に繁殖します。またコナジラミは吸汁(植物に口吻を刺して液を吸うこと)の際に様々な植物ウイルスを媒介することから、深刻な被害が世界中で広がっています。そのため、化学農薬だけに頼らない、新たな防除技術が求められています。
- ? ?本研究により、植物を介した振動を与えることで、植物上のコナジラミの数が著しく減少することがわかりました。将来的には加振器の改良に加え、振動の伝達方法?タイミングなどを工夫して防除効果を一層高めるとともに、植物に対する様々な効果についても追究していきます。こうした物理的防除技術は、化学農薬の利用頻度を低減し、有効な防除策が打てなかった害虫に対しても利用可能であることから、持続可能な農業生産へ貢献しうると考えています。
(2)研究内容
① 研究の背景?先行研究における問題点
タバココナジラミによる被害と課題 : タバココナジラミ(図1)は多くの野菜?花き類に深刻な被害を与える世界的な農業害虫です。幼虫、成虫ともに植物の栄養を直接吸汁して奪うだけでなく、甘露(病原菌が好む栄養素を含む排泄物)を排泄することで、すす病という病気を引き起こし、植物を枯らしたり作物の商品価値を下げてしまいます。またトマトの収量を著しく減らすトマト黄化葉巻病ウイルス (TYLCV)やウリ科野菜の葉に激しい黄化を引き起こすウリ類退緑黄化ウイルス(CCYV)など多くの植物ウイルスを媒介します。また本種は40以上にもおよぶ形態的に区別不能な「隠蔽種(バイオタイプ)」が存在します(Vysko?ilová et al。 2018など)。それらの中で最も深刻な侵略的外来種であるMiddle East-Asia Minor 1 (MEAM1、またはバイオタイプB) や Mediterranean (MED、またはバイオタイプQ) といったタバココナジラミは宿主とする植物種の範囲が非常に広く、様々な殺虫剤に対して強い耐性を示すことから、化学農薬のみに依存した防除法では対処できない問題が生じています。このような背景から化学農薬のみに頼らない効果的な防除法の開発が希求されています。
振動と昆虫について : ほとんどの昆虫には環境中の振動を検知する感覚器官があり、植物や樹木などを介した振動を感知して様々な行動を起こすことが知られています。たとえば、カンキツ類の害虫として知られるミカンキジラミの求愛に用いられる振動(Wenninger et al。 2009)や、天敵からの振動を感知して回避行動をとるカミキリムシ(Takanashi et al。 2016)などがあげられます。こうした振動に対する感受性を利用することで、昆虫の行動を制御する手法が注目され始めています (Takanashi et al。 2019)。この手法は化学農薬が効かない害虫や、化学農薬を散布できない場面にも適用できることから、様々な農業現場で活用できる可能性を秘めています。
?? 図1.農業害虫のタバココナジラミ(左がオス、右がメス:撮影 柳澤隆平)
② 研究内容
実験の概要 : 2棟のビニールハウスにトマトを12株ずつ用意し、トマトを振動させる「加振区」と対照区としてトマトを振動させない「無加振区」を設置しました (図2 左上)。加振区では振動を発生させる加振器 (図2 右上) を設置し、加振器から直接伸ばした樹脂製の横棒を各トマトの支柱と垂直に接続することで、植物体に振動を与えられるようにしました (図2 下)。
実験開始前にあらかじめタバココナジラミを一株あたり30匹放飼しました。植物に100Hzの振動を毎日7:00から18:00まで、30分おきに1秒加振、9秒休止という刺激を1分間与えました。振動を与えた日から5日ごとに各トマトの葉上に定着したコナジラミの成虫数と幼虫数を調査しました。
図2.実験の配置。左上 : 実験ビニールハウス全体図。右上 : 加振器 (湘南メタルテック製)。下 : 加振区を横から見た図。
加振区の成虫と幼虫の密度はどちらも無加振区とくらべて減少していました。特に幼虫では無加振区のおよそ40%もコナジラミが減少していました(図3: 一般化線形混合モデル、成虫: β = -0.33、z = -2.147、p = 0.032、幼虫: β = -0.62、z = -2.271、p = 0.023)。この結果は植物体を介した振動により、タバココナジラミの植物への定着が阻害されていることが示唆されました。
図3.葉上に定着したタバココナジラミの密度。左: 成虫 右: 幼虫
無加振区とくらべ、加振区のコナジラミの数が減少した
(3)社会的意義?今後の予定
本研究では植物体に振動を与えることで、植物上のタバココナジラミの個体数を減少させられることが明らかになりました。今後は加振器の改良を行い、振動の伝達方法やタイミングを工夫することで防除効果を一層高めるとともに、植物に対するプラスの効果についても追究していきます。物理的な防除技術は、化学農薬の利用頻度を低減し、有効な防除策が打てなかった害虫に対しても利用可能であることから、SDGs(持続可能な開発目標)の2。 飢餓をゼロに(飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する)へも貢献しうると考えています。
<引用文献>
Takanashi T et al. 2016. Substrate vibrations mediate behavioral responses via femoral chordotonal organs in a cerambycid beetle. Zool Lett 2:18. https://doi.org/10.1186/s40851-016-0053-4
Takanashi T et al. 2019. Vibrations in hemipteran and coleopteran insects: behaviors and application in pest management. Appl Entomol Zool 54:21-29. https://doi.org/10.1007/s13355-018-00603-z
Vysko?ilová S et al. 2018. An integrative approach to discovering cryptic species within the Bemisia tabaci whitefly species complex. Sci Rep 8:10886. https://doi.org/10.1038/s41598-018-29305-w
Wenninger EJ et al. 2009 Vibrational communication between sexes in?Diaphorina citri?(Hemiptera: Psyllidae). Ann Entomol Soc Am 102: 547–555. https://doi.org/10.1603/008.102.0327?
<論文情報>
論文タイトル:Substrate-borne vibrations reduced the density of tobacco whitefly Bemisia tabaci (Hemiptera: Aleyrodidae) infestations on tomato, Solanum lycopersicum: an experimental assessment(基質振動はタバココナジラミが蔓延したトマトにおける寄生密度を低下させた:実験的評価)
掲載誌:Applied Entomology and Zoology
著 者:Ryuhei Yanagisawa,Ryuichi Suwa,Takuma Takanashi,Haruki Tatsuta
DOI番号:10.1007/s13355-020-00711-9
アブストラクトURL: https://doi.org/10.1007/s13355-020-00711-9