~2020年、琉球大学は開学70周年を迎えます。~
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ウェブシステムの概要
琉球大学の久保田教授らの研究チームは、研究用のデータとして日本の生物多様性の記載情報を様々なソースから網羅的に集積してきました。この生物多様性ビッグデータに基づいて、生物多様性保全に関連する多面的な情報を、高解像度(約1km x 1km)で可視化し、株式会社シンクネイチャー(同研究チームが起業)と共同でウェブシステムとして昨日より公開しました。50以上の生物多様性に関連する項目を地図上に投影する機能や、都道府県?市区町村など4つの地理スケールで集約した生物多様性の利用と保全に関する情報としてPDF(保全カード)で表示する機能を備え、様々なシーンでの活用が期待されています。
<発表概要>
日本の生物多様性保全と生態系サービスのサステナブルな利用は、行政主導の利用規制や保全事業では限界があり、日本社会全体がアクションの主体となる必要があります。そのためには、国土全体にわたる、あらゆる生物の分布情報やそれぞれの生物種の分子系統や機能特性などの情報が、社会の基盤インフラとして、広く一般によってアクセスできる状態で維持される必要があります。これまで、自然史に関する研究や環境開発に関わるアセスメントなどを通して、研究者や地方自治体から市民活動まで様々な立場と視点に基づいて、膨大な量の生物多様性情報が記載されてきました。これらの情報は生物多様性ビッグデータとして利用可能な状態へと整備される必要がありました。
内容
琉球大学理学部、久保田教授らの研究チームは、2010年より、生態学研究に用いるデータとしてこれら膨大な記載情報を網羅的に収集分析してきました。今回、株式会社シンクネイチャー(ThinkNature Inc.、同研究チームが起業)と共同して、ウェブシステム「日本の生物多様性情報システム」を開発し、 4月21日より無料公開しました(https://biodiversity-map.thinknature-japan.com)。このような公開型のシステムとしては、基盤となる生物多様性ビッグデータの質と量、分析テクニックにおいて、世界的にも例がない試みです。同システムは様々なシーンでの活用が想定され、保全政策の科学的なサポートや、教育やレジャーでの利用、環境開発や保全活動における基礎情報などで非常に高いポテンシャルで貢献すると期待されます。今後の利用普及によって、基盤インフラとしての側面を強化し、さらに大規模な機能の充実が期待されています。
「日本の生物多様性情報システム」は、日本産の維管束植物全種(6632種)と陸域の脊椎動物全種(哺乳類119種、鳥類449種、爬虫類96種、両生類74種、淡水魚類231種)をはじめ、沿岸魚類全種(2750種)、イシサンゴ類全種(440種)の分布情報(全9,748,748点)に基づいて、以下の情報を整備しました。
- 在来種数
- レッドデータブック記載種数
- 地域ごとの進化的特異性
- 観察情報の充足度
- 地域ごとの保全優先度(Zonationアルゴリズムに基づく)
さらに、生物多様性保全や生態系サービスの持続可能性への影響が想定される様々なリスク情報を整備しました。生物要因に関わるリスクとして、外来植物種(1159種)、外来脊椎動物種(95種)および害獣(シカ類、クマ類、イノシシ類、ニホンザル)の分布情報、気候リスクとして過去30年の気温変化と台風襲来数の増減率の地理パターン、および社会リスクとして人口増減率を整備しました。また、生態系サービスに関わる情報として、1km x 1kmスケールでの炭素貯留量、作物近縁種数、有用植物種数を整備しました。これらの情報は、カラースケールとして地図上に投影し、地理パターンが視覚的に把握できます(図1)。同システムは、標準的なパソコン版のウェブブラウザから利用でき(スマートフォンにも今後対応する予定)、50項目以上のチャンネル(図1-①)、2つの地図形式(図1-②)、色の透過率(図1-③)を調整することが可能です。
図1: 「日本の生物多様性情報システム」の表示例
さらに、同システムでは、4つの地理スケール(2次メッシュ100km2?3次メッシュ1km2?都道府県?市区町村)で地域ごとの数値情報を集約しました。地図上をクリックして表示されるポップアップ(図2)に、数値情報PDF(保全カード、図3?6)ヘのリンクを備えました。
図2: 地図上のポップアップに4種類のPDF(図3?6)へのリンクが表示される
図3: 2次メッシュスケールでの数値情報P D Fの例
図4: 3次メッシュスケールでの数値情報P D Fの例
図5: 都道府県レベルでの数値情報P D Fの例
図6: 市区町村レベルでの数値情報P D Fの例
図7: 47都道県を網羅した生物多様性と保全に関する解説記事と連動
今後の展望
「日本の生物多様性情報システム」で想定される活用方法は多岐に渡り、様々なシーンで利用されることが期待されます。今後、活用事例の共有を推進するとともに、システムの改善要望や問題点を吸い上げることで、社会の基盤インフラとしての機能を充実していく予定です。また、生物多様性情報が一般によって利用可能となることで、基礎生物学的な記載情報の重要性とその情報量が未だ不十分である現状が広く社会に周知され、同分野が再び注目されることが期待されます。
研究助成
本研究の一部は、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(4-1501/4-1802)の支援を受けて実施されました。
URL: 日本の生物多様性情報システム
https://biodiversity-map.thinknature-japan.com